ビタミンDの転倒予防効果/作用機序の解明
国立長寿医療センター 先端医療部 骨粗鬆症科医長
奥泉 宏康
ビタミンDは、ビスフォスホネート剤とともに、有意に脆弱性骨折に対して予防効果が認められている薬剤である。しかし、骨強度の1因子である骨密度の増加効果は、年間に0−1%程度であり、ビスフォスホネート剤の5−7%に比較すると低い。その乖離を説明する一つの考えが、ビタミンDによる筋力増強作用で、この作用を通じて転倒が減少して転倒を契機とした高齢者の脆弱性骨折も減少するという仮説に対して、転倒予防効果があることが考えられている。
骨折予防のエビデンスに関しては、コクランシステマティックレビューでは、ビタミンDとカルシウム剤の併用により、大腿骨頸部骨折を19%減少させ(相対危険率、0.81:95%信頼区間、0.68−0.96)、非脊椎骨折を22%減少させるが(相対危険率、0.87:95%信頼区間、0.78−0.97)、脊椎骨折に関して有意差は認められていない(文献1)。しかし、一方では、70歳以上の低外傷性骨折を経験した高齢者5289名を対象とした英国の無作為対照試験で、ビタミンD3800単位とカルシウム1000mgを24ヶ月から62ヶ月投与したにもかかわらず、骨脆弱性骨折や大腿骨頸部の再骨折には、有意な予防効果がみられていないと報告されている(文献2)。
転倒そのものの予防に関するエビデンスは、総数1237名、5つのランダム化比較試験に対するメタアナリシスで、ビタミンD投与が転倒リスクを22%減少させている(オッズ比、0.78;95%信頼区間、0.64−0.92)(文献3)。
現在のところ、ビタミンD投与による脆弱性骨折予防効果や転倒予防効果については、一定の見解は得られていない。そこで、ビタミンDの筋組織に対する基礎的研究から、その作用機序に関して考察を加えていく。
| ● 2.
横紋筋におけるビタミンDの作用(文献4) |
四肢・体幹に分布している横紋筋は、太いミオシンと細いアクチンから構成される筋原線維とそれを取り囲む筋形質、筋核、そして筋線維の全表面を包む筋線維鞘から構成される。筋の収縮には筋形質に存在するsarcoplasmic reticulumから、Ca-ATPaseというエネルギー依存ポンプによって、アクチン−ミオシンの細胞液のカルシウムイオン濃度が上昇し、逆に、筋の弛緩にはカルシウム濃度が低下する(図)。
横紋筋の核内にビタミンDリセプターが存在することは、1986年、Costaらによって確認されており、そのリセプターに活性型ビタミンDである1,25(OH)2D3が付着することにより、sarcoplasmic reticulum内やミトコンドリア内膜におけるmRNAの遺伝子伝達を調整し、筋原線維構成蛋白であるトロポニンCやアクチンの合成を促進している。
また、ビタミンDは筋線維鞘の膜リセプターに結合することによって、cAMPやdiacylglycerolなどの細胞内二次メッセンジャーを介して、カルシウムイオンポンプを制御する作用も考えられている。
| ● 3. ビタミンD欠乏症における骨格筋組織(文献4) |
骨格筋には、遅く収縮する遅筋、いわゆる赤筋と速く収縮する速筋、白筋があり、前者はミトコンドリアが豊富で好気性代謝により主に収縮するII型筋線維からなり、ヒラメ筋などの遠位筋に多く見られる。一方、後者はグリコーゲンが多い嫌気性代謝により主に収縮するII型筋線維からなり、大腿四頭筋などの近位筋に多く見られる。
高度なビタミンD欠乏症患者の筋生検では、線維細胞間隙の拡大や脂肪変性、線維化などが認められ、特にII型筋線維が選択的に萎縮する。このII型筋線維の直径は血清25(OH)D濃度と有意に相関している(r=0.714、p=0.001)。このことは、高度のビタミンD欠乏患者に対して3ヶ月のビタミンD補充治療を行った研究でCa-ATPaseの量が、外側広筋において有意に増加することが認められており、近位筋に多く存在するII型筋線維がビタミンDにより再生していることを示していると考えられる。
| ● 4. 動物実験モデルにおけるビタミンDの効果(文献4) |
ビタミンD欠乏ラットではsarcoplasmatic reticulumが減少し、ミトコンドリアが増加している。また、筋原線維内アクチンや構成蛋白の一つであるトロポニンCも減少している。しかし、ビタミンD投与により正常化することが確認されている。また、ビタミンD欠乏チキンでは、ビタミンD投与により、ミトコンドリア内膜基質を50%まで、筋原性蛋白を20%まで、収縮性蛋白を10%まで増加させている。これらの実験により、ビタミンDが筋の蛋白合成に重要な効果を演じているといえる。
また、筋収縮機能に関しては、ビタミンD欠乏ラットのヒラメ筋を電気刺激で収縮させると、最大収縮までの時間や逆に半分まで弛緩する時間が遷延することが認められている。それは、数日のビタミンD投与により、血清カルシウムイオンやリン酸とは無関係に回復してくるので、通常の筋収縮に関してもビタミンDが関与している可能性を示唆している。
Bischoffらは、外来高齢男性では血清25(OH)Dと1,25(OH)2D3が下肢伸展筋力と相関関係を示し、女性では血清1,25(OH)2D3のみが筋力と相関したと報告している。また、Verhaarらの研究では、70歳以上のビタミンD欠乏女性10名に、0.5μg/日のアルファカルシドール投与により膝等尺伸展筋力が有意に増加し、2分間歩行距離が延長したが、遠位筋である握力には有意な差がみられていない。この大腿伸展筋力低下の改善は、II型筋線維が近位筋において多いことに関係しているのかもしれない。転倒予防のバイオメカニクスからは、バランスを保持するためには遠位筋である足関節周囲の遅筋が働き、転倒時の「とっさの一歩」を出すためには近位筋である股関節周囲の速筋が重要である。
しかし、Gradyらの無作為試験では69歳以上の男女に0.5μg/日のカルシトリオールを6ヶ月服用させても筋力が回復しなかったという報告もあるので、さらに詳細な検討が必要である。
| ● 6. ビタミンDの骨折・転倒予防効果評価の問題 |
ビタミンD欠乏症による大腿四頭筋などの近位の体幹筋の萎縮に対しては、ビタミンD投与後数週間から半年ぐらいで、血清25(OH)Dとともに、筋力やバランス能力が回復してくる。高齢者の場合には、カルシウムやビタミンD前駆体の摂取量が不足したり、肝臓や腎臓の機能が低下したり、慢性的なビタミンD不足に陥っている可能性もある。
また、9294名の大腿骨頸部骨折患者と9820名の非脊椎骨折患者を対象としたビタミンDによる骨折予防効果のメタアナリシス(文献6)では、ビタミンDの一日投与量が400単位では有意な差を認めず、700−800単位の場合に大腿骨頸部骨折で26%、非脊椎骨折で23%骨折が減少している。
したがって、さらにビタミンDの骨折・転倒予防効果を正確に評価するためには、血清25(OH)Dの測定による栄養状態、活動性の評価やビタミン投与量の検討などを行ない、適切な対象に適切な量のビタミンDを投与することが必要となるだろう。
文献
1)Avenell, A., Gillespie, W.J., Gillespie, L.D., et al. ; Vitamin D and vitamin D analogues for preventing fractures associated with involutional and post-menopausal osteoporosis. Cochrane Database Syst Rev(3):CD000227, 2005.
2)The RECORD Trial Group: Oral vitamin D3 and calcium for secondary prevention of low-trauma fractures in elderly people(Randomised Evaluation of Calcium Or vitamin D, RECORD):a randomized placebo-controlled trial. Lancet 365:1621-1628, 2005.
3)Bischoff-Ferrari, H.A., Dawson-Hughes, B. Willet, W.C., et. al.:Effect of Vitamin D on Falls -A Meta-analysis- . JAMA 291:1999-2006, 2004.
4)Glerup, H., Eriksen, E.R.;Chapter 102 Muscles and Falls. Vitamin D second edition. Elsevier Academic Press. Burlington, MA, USA:1805-1820, 2005.
5)上野昭孝:薬剤による転倒防止−ビタミンDを中心に−.The Bone 17:279-283, 2003.
6)Bischoff-Ferrari, H.A., Willet, W.C., Wong, J.B. et. al.:Fracture Prevention with Vitamin D supplementation -A meta-analysis of randomized controlled trials-. JAMA 293:2257-2264, 2005.
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