骨粗鬆症ガイドラインと転倒予防/薬物治療のエビデンス
国立長寿医療センター 機能回復診療部 部長
原田 敦
我が国における骨粗鬆症のガイドラインには、1998年厚生省長寿科学総合研究―骨粗鬆症研究班―のワーキンググループによって作成され、その4年後に改定された「骨粗鬆症の治療(薬物療法)に関するガイドライン―2002年度改訂版―」(文献1)がある。米国医療政策研究局のランクでIb(少なくとも一つのランダム化比較試験)以上のエビデンスが採用されて、EBM実施における日常診療への大きな支援となっている。そこには骨粗鬆症の予防と治療の目標は骨折の防止であると明記されており、そのために二つの介入点があるとされている。一つは骨粗鬆症の予防で、もう一つは骨粗鬆症の治療である。転倒は、骨折危険因子のうちの骨に関連しない要因の一つとして取り上げられ、骨量がすでに低下している高齢者においては、骨量維持と並んで転倒防止が重要であると記載されている。
上記ガイドラインによれば、身体機能に関連した因子だけでも多様な転倒の危険因子があるが、地域在宅高齢者の5年間の追跡研究によって、特に過去1年間の転倒経験、自由歩行速度が強い転倒予知因子であることが明らかにされ(文献2)、そのうち身体的因子と外的因子を改善するための転倒予防対策が専門外来あるいは教室という形式で行われ、6ヶ月での有意な身体的危険因子の改善と、転倒に対する恐怖感の減少が得られたと記述されている(文献1)。
転倒予防のエンドポイントを転倒の減少においたランダム化比較試験は数多くあり、メタアナリシスも複数発表されている。それによれば、転倒予防介入による転倒減少率は、運動訓練で10%(文献3)、バランス訓練で17%(文献3)、筋力強化とバランス改善プログラムで20%(文献4)や35%(文献5)、太極拳で49%(文献4)、改訂環境因子の修正で36%(文献4)、向精神薬中止で66%(文献4)と解析されている。さらに、包括的プログラムでは、対象や介入内容の違いはあるが、12%(文献6)、21%(文献4)、27%(文献4)、38%(文献7)とされている。ただし、残念ながら、現在のところ、転倒予防に成功したこれらの試験においても、有意な骨折率減少は報告されていない。

ガイドラインでは、骨粗鬆症治療薬の骨折予防エビデンスも数多く引用されている。ここでは骨折予防エビデンスを有する薬剤とそれにCranneyらのグループによる最高ランク(Ia)の試験に関するメタアナリシス(文献8)の結果を加えて紹介する。
- カルシウム製剤
Reckerは、女性197例に対するランダム化比較試験において、一日1200mgのカルシウム製剤投与によって脊椎に既存骨折を有する例で新しい脊椎骨折の有意な減少を得ることに成功している。ただ、既存骨折のない例では差がみられなかった(文献9)。また、この試験を含む5試験、576名の脊椎骨折予防に関するメタアナリシスでは、有意な減少はみられていない。また、非脊椎骨折に関する解析でも骨折予防効果は有意ではなかった(文献10)。
- エストロゲン製剤
エストロゲン製剤によるホルモン補充療法は、長い間、特に欧米では、閉経後骨粗鬆症の第一選択の薬物治療法であった。ガイドラインには、22試験、565例の解析で非脊椎骨折を27%減少させるとするメタアナリシス(文献11)が記載されているが、さらに厳格な評価によれば、エストロゲン製剤の骨折予防効果は傾向にとどまっていた(文献12)。しかしながら、初めて実施された大規模臨床試験(Women's Health Initiatives)(文献13)において、ホルモン補充療法は大腿骨頸部骨折と脊椎骨折を34%、他の部位の骨折を23%有意に減少させることが証明され、強力な骨折予防のエビデンスを有する薬剤となったが、同時に乳癌と心血管系障害のリスクも増大することが分かり、高齢期の骨折予防のための長期使用は推奨されなくなっている。
- カルシトニン製剤
カルシトニン製剤の骨折予防のエビデンスがガイドラインでは2つ引用されており、そのうち、より大規模な試験では、200IU/日投与群で脊椎骨折が33%減少したが、用量相関性がみられず、非脊椎骨折も100IU/日投与で減少し、それ以上の量では有意でなく、全体の整合性に問題がみられた(文献14)。メタアナリシスでは、カルシトニン製剤全体で脊椎骨折は54%減少したが、非脊椎骨折減少に関しては有意でなかった(文献15)。
- 活性型ビタミンD3製剤
ガイドラインでは、脊椎、大腿骨頸部骨折を有する女性が血中の1.25(OH)2Dのレベルが低値を示すという報告(文献16)が引用され、活性型ビタミンD3製剤は骨粗鬆症のうちでも、カルシウム不足になるような病態への投与が推奨されている。骨密度増強効果はビスフォスフォネート等より低いが、骨折予防効果は脊椎骨折で認められており(文献17),(文献18)、我が国で施行されたOrimoの試験では脊椎骨折は1/3以下に減少している(文献17)。メタアナリシスでは、活性型だけでなく、天然型の試験も含めた結果であるが、ビタミンDは脊椎骨折を37%減少し、非脊椎骨折も減少傾向を示した(文献19)。
活性型ビタミンD3には、カルシウム骨代謝関連の作用機構以外にも、筋力増強効果による転倒頻度の減少や認知機能の改善による転倒頻度の減少がもたらされる可能性がガイドラインには取り上げられている。このことは、骨粗鬆症と転倒という、骨折発生の2大要因の両方を同時に改善できる可能性が活性型ビタミンD3製剤などのビタミンDにはあり、転倒予防と骨粗鬆症治療にまたがる薬剤としての再評価が待たれる。
- ビタミンK2製剤
ガイドラインでは、ビタミンK不足が予想される例、ならびにオステオカルシン低値例が最もよい適応になるとされている。Shirakiらは214例のランダム化比較試験において、ビタミンK2製剤群はカルシウム製剤投与群に比較して有意に臨床骨折の発生頻度が減少したことを報告している(文献20)。ビタミンK2製剤を骨粗鬆症に使用しているのは日本だけであるため、エビデンスはまだ十分とは言えない。
- ビスフォスフォネート製剤
- エチドロネート
我が国でのランダム化比較試験において、エチドロネートは脊椎骨折発生率を有意に減少させることが示されている(文献21)。海外にも多数のエビデンスが存在するが、それらのメタアナリシスによれば、エチドロネートの骨折予防効果は、脊椎骨折で有意に37%減少という結果であったが、非脊椎骨折では有意でなかった(文献22)。
- アレンドロネート
ガイドラインの記述をみると、アレンドロネートの骨折予防効果については、多数の臨床的証拠があり、効果の再現性と定量性という意味では、臨床データが最も充実しているとされている。それらのメタアナリシスによれば、アレンドロネートの骨折予防効果に関しては、5-40mg/日の投与群で脊椎骨折において48%の有意な減少、そして非脊椎骨折においても10-40mg/日の投与群では49%の有意な減少を得ている。ただ、我が国で承認されている5mg/日の投与群では非脊椎骨折の予防効果は傾向にとどまっている(文献23)。
- リセドロネート
リセドロネートも骨折予防効果について多数の臨床的証拠があり、メタアナリシスの結果をみると、脊椎骨折において36%の有意な減少が示され、非脊椎骨折においても27%の有意な減少を得ている(文献24)。ガイドラインでは大腿骨頸部骨折を主要エンドポイントとした大規模試験で、70歳以上の女性例全体で約30%大腿骨頸部骨折が減少し、本骨折の予防効果を初めて明確に示したことが紹介されている(文献25)。
- ラロキシフェン製剤
ガイドライン改訂時には我が国では未承認であったラロキシフェン製剤も高レベルのエビデンスが豊富であり、メタアナリシスでは、脊椎骨折において40%の有意な減少が示されている。ただ、非脊椎骨折では有意でなかった(文献26)。本剤は、選択的エストロゲン受容体モジュレーターであるが、エストロゲン製剤とは異なり、乳腺、子宮に対して拮抗作用を持つため、エストロゲンと比較して安全性は高くなっている。
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