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保健・医療・福祉関係者の皆様へ > [連載]転倒予防と骨粗鬆症(2) 大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン/転倒予防の観点から

大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン/転倒予防の観点から

鳥取大学医学部附属病院リハビリテーション部部長・助教授
萩野 浩


1. 大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドラインについて

近年、多くの疾患について診断・治療に関する診療ガイドラインが作成されてきている。診療ガイドラインは作成に当たって、臨床研究の結果がよりどころとなるが、臨床上の問題点に関する作成者の“推奨”が加わり、単なるエビデンス集とは異なる。厚生労働省では1999年度から班研究によって、20疾患についてガイドライン作成を進めてきており、このうちの一つが大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドラインである。本ガイドラインは厚生労働省班研究(班長 松下隆 帝京大学整形外科教授)として、日本整形外科学会会員が中心となって作成された(文献1)。
大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドラインの作成にあたって、全体を10章に分け、疫学・予防から退院後の管理までの範囲をカバーするリサーチクエスチョンを採用している。以下には本ガイドラインの内容にしたがい、その疫学と予防について概説する。
2. 大腿骨頸部/転子部骨折の疫学

発生率は70歳以降に指数関数的に上昇する。わが国ではこれまで、全国規模でのサンプリング調査や限られた地域での全数調査によって、年齢階級別発生率が算出されてきた。それによれば、大腿骨頸部/転子部骨折の発生率は50歳以下では男女とも人口10万人当り10以下でその発生はごく少なく、60歳以上で徐々に増加し、70歳以降に指数関数的に上昇する。
予後に関するこれまでの調査結果では、大腿骨頸部/転子部骨折患者の受傷1年後の生存率は約80〜90%と報告されている。90歳以上の超高齢者では1年後生存率は70%程度である。
ガイドラインでは大腿骨頸部/転子部骨折の将来発生数の予測が示されている。それによれば、2000年には約11万人、2010年には約17万人、2020年には約22万人、2030年には約26万人、2043年には約27万人と、今後患者数が急増する。
3. 大腿骨頸部/転子部骨折の予防

ガイドラインでは予防に関して、1.薬物療法は予防に有効か? 2.運動療法は予防に有効か? 3.ヒッププロテクターは予防に有効か?のリサーチクエスチョンがとりあげられている。

  1. 薬物療法は予防に有効か?
    薬物療法についての推奨は「有効である」(グレードはA:行うよう強く推奨する。強い根拠にもとづいている)である。これは「アレンドロネートとリセドロネートは70歳代までの骨粗鬆症の女性の大腿骨近位部骨折を減少させるとする高いレベルのエビデンスがある(Level Ia:ランダム化比較試験のメタアナリシスあるいはシステマティックレビュー)。ビタミンDはカルシウム併用で80歳代の施設入所女性の大腿骨近位部骨折を減少させるとする高いレベルのエビデンスがある(Level Ia)。エストロゲンは大腿骨近位部骨折を減少させるが、他の全身的有害事象が多いとする高いレベルのエビデンスがある(Level Ia)。」という事実(サイエンティフィックステートメント)にもとづいている。
    アレンドロネートとリセドロネートは大腿骨頸部/転子部骨折発生頻度を有意に引き下げたと報告されている。特にリセドロネートは大腿骨頸部/転子部骨折を主たる評価項目とした大規模臨床試験で、相対危険度を有意に低下させた。ビタミンDはカルシウムとの併用で、平均84歳の施設入所の脆弱高齢者において、本骨折発生の予防効果が確認されている。また最近、ビタミンDには転倒予防効果があることが知られている。ビタミンDは歩行能力を維持して、その結果、転倒を防止すると考えられている。これまでの研究によれば、表のごとく、多くの報告でビタミンD投与で転倒頻度の減少が見られるものの、個別の研究で有意な変化を示したものは少ない。しかしそれら5つのランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシス結果では、ビタミンDは転倒リスクを22%減少(オッズ比:0.78、95%信頼区間 0.64-0.92)させており、有意な転倒頻度抑制効果が認められている(文献2)。

    ビタミンDの転倒頻度抑制効果

    大腿骨頸部/転子部骨折は脊椎骨折に比較してその発生率が低いため、骨粗鬆症治療薬の臨床試験では多くが脊椎骨折予防効果を主たる評価項目としている。そのため、大腿骨頸部/転子部骨折発生率の低下を示したランダム化比較試験は少ない。この点を考慮して、ガイドラインでは大腿骨頸部/転子部骨折以外の骨折予防や骨粗鬆症の治療については、骨粗鬆症の治療に関する他のガイドラインを参照するよう述べられている。
  2. 運動療法は予防に有効か?
    運動療法の有効性について、ガイドラインでは、「運動療法は転倒予防には有効である(Grade A)。」と推奨されている。そして「運動療法は転倒率を低下させ、転倒予防に有効である。骨折を含む重度外傷に限ると運動療法による骨折の減少率には差がなく、これまでの運動療法では大腿骨頸部/転子部骨折リスクの減少効果は証明されていない。骨折を予防するためには、さらに効果の高い運動療法を考案することが急務である。」と解説されている。このように運動療法には転倒予防に有効であるとする高いレベルのエビデンスがあるが、骨折予防を明らかとした研究結果はないのである。しかしながら後述のごとく、大腿骨頸部/転子部骨折の大半が転倒によって発生していることを考えると、間接的に、運動療法が本骨折の予防に有効であると推測される。
  3. ヒッププロテクターは予防に有効か?
    ヒッププロテクターは予防に有効である(Grade A)。これはコクランシステマティックレビューの「ヒッププロテクターは大腿骨近位部骨折リスクの高い人々においては、大腿骨頸部/転子部骨折リスクを減少すると思われる」とするエビデンスにもとづいている。しかし同時に、この結果を一般住民に当てはめることができるかは不明で、使用者が受け入れるには、不快感や使いにくさが問題点として残っている点も、このシステマティックレビューで指摘されている。
4.転倒予防の重要性

大腿骨頸部/転子部骨折の受傷原因わが国での高齢者の転倒によるケガの頻度は50〜70%程度、このうち骨折に至る症例は10%前後で、その1/4程度が大腿骨頸部/転子部骨折であると報告されている。日本整形外科学会が行った大腿骨頸部/転子部骨折の全国調査によれば、平成10年から12年までに発生した110,747例(35歳以上)の大腿骨頸部/転子部骨折の原因は、単純な転倒が最も多いという結果で(図)3)、立った高さからの転倒が原因全体の3/4を占め、90歳以上の超高齢者では82%を占めていた。“不明”および“記憶無し”を除けば90%以上が転倒によって発症しており、米国内での調査結果と一致する。また屋内で受傷した患者が約3/4を占め、90歳以上の超高齢者では86%が屋内受傷で、右側より左側に多い傾向がみられた。ただ、ガイドラインの中で解説されているごとく、転倒リスク増加が年齢や骨密度減少と独立して、どの程度、大腿骨頸部/転子部骨折発生リスクに寄与しているかについては十分に明らかとなっていない。
いずれにしても転倒は骨折発生原因の90%以上を占め、転倒を防止すれば、骨折を防ぐことが可能となる。薬物療法による大腿骨頸部/転子部骨折予防効果は証明されているものの、その発生を半分程度までにしか低下させることはできないわけであり、転倒予防は骨折防止の重要な戦略の一つとなる。


5. 今後の課題

転倒防止の取り組みは、一見容易に見えるが、実際には困難なことが多く、様々な人々が多面的に挑戦しているのが現状である。今後、高齢者の転倒予防にかかわる全てのスタッフが協力し、ユニークなアプローチを編み出して、有効な転倒対策を確立することが急務である。


文献
1)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン 南江堂(日整会診療ガイドライン委員会 編),東京,2005
2)Bischoff HA, et al:Effect of vitamin D on falls. A meta-analysis. JAMA 291:1999-2006,2004
3)Committee for Osteoporosis Treatment of The Japanese Orthopaedic Association:Nationwide survey of hip fractures in Japan. J Orthop Sci. 9:1-5, 2004
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