産業医科大学整形外科教授
中村 利孝
閉経期以後の女性に見られる骨粗鬆症は、1941年Albrightによりエストロゲン欠乏が一次的病因とされた。その後、骨粗鬆症は男女ともに生じ、加齢に伴う退行性変化であり、治療は不可能かもしれないという懸念もあり退行性骨粗鬆症という名称が使用された。しかし、1990年代に入り骨代謝制御薬が登場し、骨粗鬆症の骨折危険性を低下できるようになった。このような状況の中で、骨粗鬆症の分類と治療も大きく変わりつつある。
骨粗鬆症の分類は変わった
骨粗鬆症は閉経後骨粗鬆症、男性骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症、続発性骨粗鬆症の四つに分けられる(*1)。現在使用されている閉経後骨粗鬆症という分類名は、閉経後女性の骨折リスク増加状態のすべてを含む。以前はRiggsらは、閉経後骨粗鬆症をタイプ1とし、男女ともに生じる老人性骨粗鬆症をタイプ2とした。しかし、高齢者男女とも骨代謝異常の原因として性ホルモン欠乏が基本にあることが確認され、高齢女性であっても閉経後骨粗鬆症とし、男性は男性骨粗鬆症として別個に取り扱うようになった。従って、70歳前後を境にして閉経後骨粗鬆症と老人性骨粗鬆症に分けていた分類は、すでに過去のものとなった。実際、欧米の文献に見られる閉経後骨粗鬆症を対象とした大規模な臨床試験の成績は、70歳以上の高齢女性も含めたものである。
骨量が減少する主な要因はエストロゲンの欠乏と加齢である。エストロゲン欠乏の骨量に及ぼす影響は、50歳代における早期の急激な減少とともに、70歳以後における緩やかな減少も関与している。さらに70歳以後では、長期のエストロゲン欠乏と加齢によるビタミンD効果の減少により、腸からのカルシウム吸収が低下し副甲状腺機能が亢進してくる。従来、副甲状腺にエストロゲンの受容体がないことから、高齢者の骨量減少はカルシウム、ビタミンD不足が関与すると考えられていた。しかしその後、高齢者の骨粗鬆症女性でもエストロゲンの投与によって、
(1)骨代謝の亢進が抑制され、血清副甲状腺ホルモンの値も低下すること
(2)腸からのカルシウム吸収が促進され、血清中の活性型ビタミンDも増加傾向を示すこと
(3)腎でのカルシウム再吸収が増加すること
(4)副甲状腺ホルモンの貯蔵量が低下すること
などの臨床的な証拠が集積されてきた。したがって、従来、老人性骨粗鬆症とされた状態にも、ビタミンD欠乏とは別個に、女性ではエストロゲン欠乏が関与していることが確認された(図1)。
図1 高齢女性の骨粗鬆症におけるエストロゲン欠乏とカルシウム・ビタミンD系の関与

閉経後骨粗鬆症の治療
閉経後骨粗鬆症の治療では骨折リスクの判定が第一である。リスクファクターで重要なのは、@骨折の既往、母親の骨折歴、A骨密度測定、B骨代謝マーカーの三つと、年齢である。日本人女性の年齢による脊椎骨折の年間危険率は50歳では0.5%前後であるが、65歳から70歳にかけて1.5〜2.0%にまで急激に増加する(図2)。
図2 日本人女性の50歳以後における脊椎骨折の年間危険率
さらに、骨折の既往、母親の骨折歴があるとほぼ2倍、骨密度が1SD低下するごとに2倍、骨代謝マーカーが基準値を超えると2倍に増加する。したがって、60歳では骨折のリスクが二つあると、骨折リスクはほぼ5%、三つでは8%程度になる。70歳ではリスクが一つでもあると5%を超える。骨粗鬆症に対する薬物による治療介入には、リスクの数が重要である。WHO(世界保健機関)でも、薬物治療による介入は、年齢と骨折リスクの数によって決めることを推奨している(*2)。
骨折危険率が1〜3%以内の例では、カルシウム、ビタミンDなどの栄養摂取と運動の推奨でよいかもしれない。しかし、脊椎骨折の年間危険率が3〜5%を超えると、骨折発生の現実感は増大する。脊椎骨折は1個生じると、次の骨折の危険率をさらに倍増させる。骨折リスクの数と年齢から、およその危険率を想定し、患者と相談のうえで薬物療法を開始するのがよい。骨代謝調節薬としてはアレンドロネート、リセドロネートなどのビスフォスフォネートとSERM(サーム)であるラロキシフェンが主体である。これらの薬物の効果は、身長、骨密度、骨代謝マーカーを半年ごとに測定してモニターする。その結果、反応が十分でない場合には、活性型ビタミンD、カルシウムを併用する。ラロキシフェンとアレンドロネートの併用で、相加的な骨密度増加が得られたというデータが報告されている(*3)。しかし、骨折防止効果が相加的であるか否かは不明である。今後、ビタミンD、ラロキシフェン、ビスフォスフォネートの併用に関するエビデンスの蓄積が待たれている。
文献
*1)Primer on the metabolic bone diseases and disorders of mineral metabolism. Fifth Edition (ed. by Favus MJ et al):American Society for Bone and Mineral Research, Washington DC, 2003
*2)Anonymous:Prevention and management of osteoporosis:Report of a WHO Scientific Group:WHO technical report series 921, 2004
*3)Johnell O et al:Additive effects of raloxifene and alendronate on bone density and biochemical markers of bone remodeling in postmenopausal women with osteoporosis:J Clin Endocrinol Metab 87:985-992, 2002
(メディカル朝日 2005年4月号より転載)
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