転倒・骨折・介護予防のために。転倒予防について

ビタミンDの転倒予防効果/作用機序の解明

1. ビタミンDの骨折・転倒予防効果

ビタミンDは、ビスフォスホネート剤とともに、脆弱性骨折(低骨量が原因で、軽微な外力によって起こる非外傷性骨折)に対して効果が認められている薬剤です。しかし、骨密度を増加させる効果は年間に0-1%程度で、ビスフォスホネート剤の5-7%に比較すると低くなっています。では、どうしてビタミンDは脆弱性骨折に効果があるのかというと、一つには筋力を増強する作用があるからだといわれています。この作用によって、転倒がきっかけで起こる高齢者の脆弱性骨折を減少させると考えられているのです。

ビタミンDの骨折予防のエビデンスには、ビタミンDとカルシウム剤を併用することで、大腿骨頸部骨折を19%減少させ、非脊椎骨折を22%減少させるというデータがあります。ただし、脊椎骨折については差は認められていません。一方、70歳以上の低外傷性骨折の経験者5,289名を対象とした英国の研究では、ビタミンD3を800単位とカルシウム1000mgを24ヶ月〜62ヶ月投与しても、骨脆弱性骨折や大腿骨頸部の再骨折には予防効果がみられなかったとの報告もあります。

転倒そのものの予防に関するエビデンスについては、総数1,237名にのぼる5つの研究の解析結果で、ビタミンD投与は転倒リスクを22%減少させています。

しかし、現在のところ、ビタミンD投与による脆弱性骨折や転倒予防の効果については、一定の見解は得られていません。そこで、ビタミンDの筋組織に対する基礎的研究から、その作用のメカニズムを考察してみたいと思います。

2. 横紋筋におけるビタミンDの作用

横紋筋は四肢や体幹に分布しており、筋原繊維と、それを取り囲む筋形質、筋核、筋線維鞘からできています。筋の収縮は、筋形質や筋線維鞘に存在する物質がカルシウムイオンを制御することによって行われていて、筋が収縮する時は細胞液のカルシウムイオン濃度が上昇し、弛緩する時にはカルシウム濃度が低下します。

横紋筋の核内には、ビタミンDのレセプター(受容体)が存在しており、そのレセプターに活性型ビタミンDである1,25(OH)2D3が付着することによって、筋原線維の蛋白の合成を促進しています。またビタミンDは、カルシウムイオン濃度を調整するポンプの制御にも関わっていると考えられています。

3. ビタミンD欠乏症における骨格筋組織

骨格筋には、遅く収縮する遅筋・いわゆる赤筋と、早く収縮する速筋・いわゆる白筋があります。遅筋は、好気性代謝により主に収縮するI型筋線維からなり、ヒラメ筋(下腿三頭筋の深層にある平たい筋)などの遠位筋(体の中心部から遠いところにある筋肉)に多く見られます。一方、速筋は、嫌気性代謝によって主に収縮するII型筋線維からなり、大腿四頭筋などの近位筋(体の中心部に近いところにある筋肉)に多くみられます。
高度なビタミンD欠乏症患者では、特にII型筋線維が萎縮します。3ヶ月のビタミンD補充治療を行った研究では、II型筋線維が再生すると考えられています。

4. 動物実験モデルにおけるビタミンDの効果

動物実験でも、ビタミンDが筋の蛋白合成に重要な役割を果たしていることがわかっています。
筋の収縮機能に関しての研究では、ビタミンDが欠乏しているラットでは、ヒラメ筋を電気刺激で収縮させた時、収縮や弛緩にかかる時間が長くなります。しかし、数日ビタミンDを投与すると回復します。このことから、通常の筋収縮に関しても、ビタミンDが関与している可能性が考えられます。

5. ビタミンDと筋力

Bischoffらは、外来高齢男性では、血清25(OH)D(ビタミンD代謝物)と1,25(OH)2D3(活性型ビタミンD)が下肢を伸ばす筋力と相関関係があり、女性では1,25(OH)2D3のみが筋力と相関していたと報告しています。また、70歳以上のビタミンD欠乏女性10名に、0.5μg/日のアルファカルシドール(ビタミンD剤)を投与したところ、ひざなどを伸ばす筋力が増加し、2分間歩行距離が延長したという報告があります。しかし、遠位筋である握力には差が見られませんでした。これは、II型筋線維が近位筋に多いことが関係しているのかもしれません。転倒予防という視点からは、バランスを保持するためには遠位筋である足関節周囲の遅筋が働き、転倒時のとっさの一歩を出すためには近位筋である股関節周囲の速筋が重要です。

しかし、69歳以上の男女に0.5μg/日のカルシトリオール(ビタミンD剤)を6ヶ月服用させても筋力が回復しなかったという報告もあるので、さらに詳細な検討が必要です。

6. ビタミンDの骨折・転倒予防効果評価の問題

ビタミンD欠乏症による大腿四頭筋などの近位の体幹筋の萎縮に対しては、ビタミンD投与数週間から半年ぐらいで、血清25(OH)Dとともに、筋力やバランス能力が回復してきます。高齢者の場合、カルシウムやビタミンD前駆体の摂取量が不足したり、肝臓や腎臓の機能が低下したりして、慢性的なビタミンD不足に陥っている可能性もあります。

また、9,294名の大腿骨頸部骨折患者と9,820名の非脊椎骨折患者を対象にしたビタミンDによる骨折予防効果を解析した研究では、ビタミンDの一日投与量が400単位では差が認められず、700-800単位の場合に大腿骨頸部骨折で26%、非脊椎骨折で23%、骨折が減少しています。
ビタミンDの骨折・転倒予防効果をさらに正確に評価するためには、血清25(OH)Dの測定による栄養状態、活動性の評価やビタミン投与量の検討などを行い、適切な対象に適切な量のビタミンDを投与することが必要だと思われます。

(監修/奥泉宏康:東御(とうみ)市立みまき温泉診療所)

後援:日本骨粗鬆症学会 (C)yutakanahone-suishin-iinkai