転倒・骨折・介護予防のために。転倒予防について

大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン/転倒予防の観点から

1. 大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドラインについて

厚生労働省では、1999年度から20の疾患についてガイドラインの作成を進めています。このうちの一つが大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドラインで、全体を10章に分け、疫学・予防から退院後の管理までの範囲をカバーしています。以下、このガイドラインについて概説します。

2. 大腿骨頸部/転子部骨折の疫学

わが国では、これまで全国規模でのサンプリング調査や限られた地域での調査によって、年齢階級別発生率が算出されてきました。それによると、大腿骨頸部/転子部骨折の発生率は、50歳以下では男女とも10万人当り10以下で発生はごく少ないのですが、60歳以上で徐々に増加し、70歳以降になると上昇します。
予後に関しては、大腿骨頸部/転子部骨折と診断された患者さんの1年後の生存率は約80〜90%と報告されています。90歳以上の超高齢者では、1年後生存率は70%程度です。
ガイドラインでは、大腿骨頸部/転子部骨折が将来、どのくらい発生するかも予測しています。それによると、2000年には約11万人、2010年には約17万人、2030年には約26万人、2043年には約27万人と、今後患者の数は急増すると予測されています。

3. 大腿骨頸部/転子部骨折の予防

予防に関しては、薬物療法・運動療法・ヒッププロテクターの3つについて、予防に有効かどうか、取り上げています。

  1. 薬物療法は予防に有効か?
    薬物療法については「有効である」(グレードはA:行うよう強く推奨する。強い根拠に基づいている)となっています。これは、

    • アレンドロネートとリセドロネートは70歳代までの骨粗鬆症の女性の大腿骨近位部骨折を減少させる。
    • ビタミンDはカルシウム併用で80歳代の施設入所女性の大腿骨近位部骨折を減少させる。
    • エストロゲンは大腿骨近位部骨折を減少させるが、他の全身的有害事象が多い。
    という、それぞれ高いレベルのエビデンス(根拠)があることに基づいています。

    また最近になって、ビタミンDには転倒予防効果があることが知られるようになりました。ビタミンDは歩行能力を維持し、その結果転倒を防止すると考えられています。5つのランダム化比較試験を総合的に見る研究では、ビタミンDは転倒リスクを22%減少させるという結果が得られ、転倒頻度抑制効果が認められています(下表)。
    ビタミンDの転倒頻度抑制効果
    大腿骨頸部/転子部骨折は、脊椎骨折に比べて発生率は高くありません。そのため骨粗鬆症治療薬の臨床試験では、脊椎骨折の予防効果を主に評価するものが多く、大腿骨頸部/転子部骨折に関する研究は少ないのが現状です。この点を考慮して、ガイドラインでは、大腿骨頸部/転子部骨折以外の骨折予防や骨粗鬆症の治療については、骨粗鬆症に関する他のガイドラインを参照するように述べています。
  2. 運動療法は予防に有効か?
    ガイドラインでは「運動療法は転倒予防には有効である(グレードA)」として推奨されています。しかし、骨折予防については運動療法の効果を明らかにした研究結果はありません。ただ後述するように、骨折の大半が転倒によって発生していることを考えると、間接的に骨折の予防にも有効だと考えていいでしょう。
  3. ヒッププロテクターは予防に有効か?
    ヒッププロテクターは予防に「有効である(グレードA)」となっています。しかし、一般の人が受け入れるには、使用時の不快感や使いにくさなどの問題が残っています。

4. 転倒防止の重要性

大腿骨頸部/転子部骨折の受傷原因わが国では、高齢者の転倒によるケガの頻度は50〜70%程度、このうち骨折に至る症例は10%前後で、その1/4程度が大腿骨頸部/転子部骨折であると報告されています。日本整形外科学会が行った大腿骨頸部/転子部骨折の全国調査によると、平成10年から12年までに発生した110,747例(35歳以上)の大腿骨頸部/転子部骨折の原因は、単純な転倒が最も多いという結果で(右図)、立った高さからの転倒が全体の3/4を占め、90歳以上の超高齢者では82%にのぼりました。“不明”および“記憶無し”を除けば、実に90%以上が転倒によるもので、米国内での調査結果と一致します。また、屋内でケガした人が約3/4、 90歳以上の超高齢者では86%を占め、右側より左側に多い傾向が見られました。ただ、転倒リスクの増加がどの程度大腿骨頸部/転子部骨折発生リスクに関わっているかは、十分に明らかになっていません。
いずれにしても、転倒は骨折発生原因の90%以上を占め、転倒を防止すれば骨折を防ぐことが可能です。転倒予防は骨折防止の重要な戦略の一つといえるでしょう。


5. 今後の課題

転倒防止の取り組みは、一見容易に見えますが、実際には困難な事が多く、様々な人がいろいろな面から挑戦しているのが現状です。今後、高齢者の転倒予防に関わるすべてのスタッフが協力し合い、ユニークなアプローチを編み出して、有効な転倒対策を確立することが急務だと思われます。

(監修/萩野 浩先生:鳥取大学医学部附属病院リハビリテーション部部長・助教授)

後援:日本骨粗鬆症学会 (C)yutakanahone-suishin-iinkai