転倒・骨折・介護予防のために。転倒予防について

転倒予防と骨粗鬆症(1) 総論 転倒予防と薬物療法

1. 骨粗鬆症診療の目標

40年前では腰痛を軽くすることが骨粗鬆症の診断・治療の主な目標でしたが、その後はより科学的、広角的に骨粗鬆症を診断し治療しようという方向に変遷・発展を遂げて参りました。約20年前からの骨量計測法の開発・普及、骨量増加作用が科学的に確認された治療薬の活用、約10年前からの骨折頻度抑制効果の実証、そして21世紀に入ってからはより多くのエビデンスを示す治療薬の登場といったように骨粗鬆症診療は着実な歩みを見せてきています。

大腿骨頸部骨折患者数の5年毎の推移一方、患者さんの意向調査などでは患者さんの望んでいることは痛みのない生活を生涯にわたって送りたい、寝たきり状態など身体機能が著しく低下する状況だけは避けたい、といった2点に絞られることが明らかとなりました。このことから、骨粗鬆症の診療目的として、大腿骨頸部骨折を避けることが大きな位置を占めることになります。ところが、大腿骨頸部骨折の発症頻度に関する全国調査では1987年には約53,200件であったものが、2002年には約117,900件と15年間に2.2倍にも増加しています(右図参照)。このために医療サイドからの骨強化を通して骨折を予防する手法に加えて、福祉・介護サイドからの転倒予防やヒッププロテクター装着を通して骨折を予防する手法の全国展開が望まれているのが現状です。骨粗鬆症を正しく診断し、治療することの究極の目標は骨折を防いで痛みのない生活を送ったり、高い日常活動性を維持することですが、これらの目標のいずれをも適える薬剤としてビタミンD剤の様々な作用が明らかにされて参りました。

2. ビタミンDの転倒予防効果

大腿骨頸部骨折患者3,053例の月別発生頻度を調査した北欧の報告から、春・夏に比べて冬季には2〜3割も骨折発生数が増えていること、大腿骨頸部骨折患者の骨を詳しく調べてみると骨軟化症を有する人が相当数含まれていることが明らかになりました。また、平均年齢84歳の元気に歩行可能な高齢者を2群に分け1群にはビタミンDとカルシウムを飲んでいただいたところ、偽薬を内服した群に比べてその後18ヶ月間の大腿骨頸部骨折数は43%減少したとの報告もあります。ところが、18ヵ月後の大腿骨頸部の骨密度はビタミンD内服群と偽薬内服群との間でほとんど差がなかったため、骨密度の増加以外に大腿骨頸部骨折を起こしにくくする要因の存在が示唆されたのです。同様に国内の研究でも、活性型ビタミンD製剤の内服群と偽薬内服群とでは腰椎の骨密度はそれほど差がでなかったのに、脊椎の骨折発生率は偽薬群に比べて活性型ビタミンD製剤内服群では約4分の1に減少し、ビタミンDは骨密度増加以外の作用があることが示唆されました。

ビタミンDの骨折率抑制効果については骨量増加作用以外に骨質改善作用・筋力強化による脊椎保護作用の存在などが以前から推論されてきましたが、2000年頃からビタミンDの筋力増強作用、体幹動揺防止作用、それらによる転倒予防作用が明らかにされ、長年におよぶ推論のなぞが解明されたのです。

ビタミンDの筋力増強・体幹動揺防止・転倒防止作用

オランダの研究で半年間に渡り活性型ビタミンD製剤を内服した人は、内服前に比べて10〜12%もひざ伸展筋の筋力が増加していることを明らかにしました。また、立ち上がって3m先の柱を回って帰って再び座るといったテストに要する時間は、ビタミンD内服で約3分の2に短縮しました。この研究では、ビタミンDの内服より握力の増加がなかったことからビタミンDは近位筋(腰周辺など体幹に近い筋肉)の増強作用があるといえます。

ドイツの医師が、下図「血中ビタミン濃度と体幹動揺との関係」に示すように体幹動揺の速度と血中ビタミンD濃度との関係を調べて、血液中のビタミンD濃度が減少すると体の動揺速度が増加することがわかり、報告しています。さらにスイスでは、カルシウム単独投与群とカルシウムとビタミンD併用投与群との転倒回数を調べたところ、下表「ビタミンD投与による転倒軽減効果」に示すようにビタミンD併用群ではカルシウム単独群に比べて転倒回数は半減していました。

血中ビタミン濃度と体幹動揺との関係
ビタミンD投与による転倒軽減効果

このようにビタミンDまたはその仲間の転倒抑制効果が次々と明らかにされてきましたが、2000年から2004年までの4つの海外の文献をまとめますとビタミンD内服により倒頻度は41〜53%も減少することになります。

筆者は、約15年前に活性型ビタミンDを投与して骨量を増加させた患者の臨床像として何となく骨格がしっかりとして大きくなる、活動的になるとの印象を得て記述したことがあります。この印象が最近の研究で科学的に証明され、また日本の臨床医が活性型ビタミンDをいつまでも好んで処方する理由がわかったような気がして嬉しく思っています。


(監修/林先生:原宿リハビリテーション病院 名誉院長)

後援:日本骨粗鬆症学会 (C)yutakanahone-suishin-iinkai