転倒・骨折・介護予防のために。転倒予防について

転倒予防のチェックポイント

神経内科の領域で伝えられている言葉に「ステテコ症候群」というものがあるという。中高年男性が、ちゃんとステテコを身に着けたり、脱いだりできなくなったら、脚の機能が衰えた証拠だというものだ。筆者の先輩の整形外科医も、「立ったまま靴下をはくことができる内はまだ大丈夫だ」と述べていたことと相通ずるものがあるようだ。

つまり、しっかりと片脚立ちをしたまま確かな距離感覚をもって、目的の下着・はき物を着脱する行為には、脚の筋力及びバランス能力をはじめ、からだ全体の運動機能、感覚機能が健全に備わっていることが必要である。したがって、もしそうした行為がうまくできなくなるということは、それらの機能の衰弱あるいは障害を象徴していることになる。

店頭リスク(内的要因)の寄与度転倒予防のチェックポイントを整理するためには、転倒リスクを明らかにすることが前提条件となる。表には、内的要因としての転倒リスクを列記してある1)。特に転倒リスクを増大させる項目は、「筋力低下」「下肢筋力の低下」「歩行能力の低下・障害」「移動能力制限」「末梢神経障害」「バランス障害」「認知障害」「視覚障害」である。中でも、「筋力低下」「バランス障害」「歩行障害」「移動能力制限」については、複数の文献で有意な差が報告されている。

したがって、転倒予防のチェックポイントの中には、これらの転倒リスクを把握できる評価・測定の方法・システムあるいは問診の仕方が重要である。例えば、朝起きてから夜寝るまでの間に、片脚立ちをする動作(起床直後の衣服の着脱、はき物の着脱、入浴時の浴槽の出入り動作等)が、いくつも含まれている。前述した「ステテコ症候群」と同様に、それらをしっかりと安定させてできるかどうかを尋ねることにより、その人の「易転倒性(転倒しやすさ)」を把握するよい指標となる。

歩行動作自体、片脚立ちの連続技とみなすことができる。若年成人では、片脚立ちの時間が長いものが、高齢者になるにつれて両足接地時間が長くなることが知られている。したがって、歩容を観察することだけでも、その人の運動機能、特に下肢の筋力、バランス能力を推察する重要な情報が得られることが多い。

筆者らの研究グループでは、高齢者の易転倒性、言い換えれば転倒回避能力の測定・評価方法として「健脚度(R)」を用いている。健脚度(R)は、歩く(10m全力歩行)、またぐ(最大一歩幅)、昇って降りる(40cm、20cm踏台昇降)の3つの要素(評価測定項目)から成り立っている。高齢者が日常生活環境の中で行う移動動作を主体にしているため、特別なことを行うという意識をさせず、無理なく「脚」の老化度を把握できる。と同時に、評価・測定場面を通して、転倒予防への動機づけを行う副次的な効果もある2)。 また、バランス能力として「つぎ足歩行」を加えて、全体として転倒回避能力の評価・測定とした「転倒予防・介護予防のための健脚度(R)測定システム」ソフトも販布されている((株)ユウエンタープライズ:tel/052-759-4430,fax/052-759-4431)。

改正介護保険法や健康日本21の中でも、転倒・骨折予防は重要な位置付けを持ち始めている。その具体的な事業を展開するに当たって、転倒リスクをどのように評価して、転倒予防に結び付けるかは、保健・医療・福祉の現場での喫緊の課題である。


文献
1)武藤芳照、太田美穂、長谷川亜弓、山田有希子、杉山明希:総説/転倒予防、臨床整形外科、40(5):537-548、2005
2)上岡洋晴、岡田真平:健脚度の測定・評価、転倒予防教室-転倒予防への医学的対応(第二版)(武藤芳照他編)、pp89-97、日本医事新報社、東京、2002

( 監修 / 武藤芳照:日体大総合研究所 所長、東京大学 名誉教授 )
協力:暮しの手帖社, 後援:日本骨粗鬆症学会 C yutakanahone-suishin-iinkai