転倒・骨折・介護予防のために。転倒予防について

バランス訓練を含む複合的運動を

介護保険制度の改正に伴い、平成18(2006)年度からは、予防重視の方針が打ち出され、介護予防サービスの中の運動のあり方が盛んに論議されている。一般市民や患者さんからも「転倒予防にはどんな運動が一番効くのでしょう?」という質問をしばしば受ける。

高齢者の虚弱、転倒による傷害を減らすための介入方法を検討したFICSIT(Frailty and Injuries:Cooperative Studies of Intervention Techniques)研究では、運動介入の中でもバランス訓練および複合的な運動で特に高い転倒予防効果が得られることが報告されている。中でも運動以外の介入効果を除外した結果によると、「筋力増強運動」や「持久的有酸素性運動」「ストレッチング」ではほとんど効果がないのに対して、「バランス訓練」で25%、「複合的な運動」で13%、転倒発生頻度をそれぞれ抑制することが示されている。「転倒」は、複合的な要素が相互に影響を及ぼしあった結果、発生することを考えると、やはり身体機能全体を改善・向上して転倒を予防するためには、バランス訓練を含む複合的な運動メニューが必要である。

高齢者の転倒予防の運動プログラムで大切なのは、「無理なく楽しく30年」の標語に示すように、安全に配慮しつつ有効な運動を継続して行うことである。運動の質(種類)と量(程度、時間、頻度)を考慮すると共に、個々の高齢者の心身の特徴を把握しつつ、運動が無理なく楽しく継続できる工夫と配慮が必要である。

バランス訓練の3つのポイント図は、バランス訓練のポイントを示している。Whippleら(1997)によると、効果的なバランス訓練の特徴は、(1)自分の体重がかかる(立位での)運動であること、(2)水平方向(前後左右)へのすばやい運動を含み、身体と頭部(眼球運動)の相互作用があること、(3)垂直方向(上下)の振幅運動を含み、大腿部と股関節周辺の筋群が働くことである。

それらの要素を含み、しかも高齢者が普段の生活でも無理なく実施でき、時にボールや音楽等を使って楽しさも体感できる運動プログラムの工夫が望ましい。

一般に、運動・スポーツ・トレーニングが、「汗と涙と痛み」と連関してとらえられることが多い。また、高齢者にとって、運動が「つらいこと」「つまらないこと」「やらないといけないこと」のように位置づけられることも少なくない。したがって、高齢者にとって、運動が「気持ちのよいこと」「楽しみなこと」「続けてやりたいこと」となるように、運動プログラムの内容と方法、指導・サポートの工夫をすることが大切である。その積み重ねの後、結果として転倒予防の効果が生まれるのだから。



文献
1)武藤芳照、太田美穂、長谷川亜弓、山田有希子、杉山明希:総説/転倒予防、臨床整形外科、40(5):537-548、2005
2)高橋美絵、岡田真平、太田美穂、武藤芳照:転倒・骨折予防の運動プログラム、月刊総合ケア15(9)、印刷中
3)身体教育医学研究所パンフレット「楽しい運動あそびで転倒予防!第2版」身体教育医学研究所、長野県東御市、2005

( 監修 / 武藤芳照:日体大総合研究所 所長、東京大学 名誉教授 )
協力:暮しの手帖社, 後援:日本骨粗鬆症学会 C yutakanahone-suishin-iinkai